Archive for June, 2007

The plasticity of transcription

June 21, 2007

Nature Genetics. 39, 730-732 (2007)
Tissue-specific transcriptional regulation has diverged significantly between human and mouse

今月のNature Geneticsに掲載された上記論文は大変面白い。
生命の進化の過程で保存された転写調節メカニズムは異種間の転写因子の標的配列の相同性に準じると多くの人は想像するかもしれません。
同じ転写因子であればマウスとヒトで結合遺伝子は同じだろうか。結合部位は同じだろうか。異種間で保存されたアライメントに準じて結合するだろうか。
答えはNoである。
それをこの論文は検証した。
進化的に保存された同じ転写因子であっても結合が異種間でかなり異なることを示したこの論文は同じほ乳類としてヒトの代用を果たしているマウスの研究結果に再考を迫るだろう。

方法はChIP-on-chipです。
まずカスタムメイドのマイクロアレイですが、彼らは4000種類以上のヒトとマウスのオーソログ(異種間相同遺伝子)に対して転写開始点前後5kbの範囲で60merのオリゴヌクレオチドをプローブとして設計した。
抗体は4つの転写因子(FOXA2,HNF1A,HNF4A,HNF6)を用い、細胞はヒトとマウスの肝臓からそれぞれ単離した初代肝細胞を用いた。

結果はこれらの転写因子が結合するオーソログの実に41-89%がヒトとマウスで異なるという驚くべき結果だった。つまり同じ転写因子であってもその結合遺伝子の41-89%は種特異的である。
またHNF6についてヒト初代肝細胞と不死化ヒト肝細胞株であるHepG2を比較したところ、結合オーソログの66%を共有したのに対して、マウス初代肝細胞とは26%しか結合オーソログを共有しなかった。つまり異種間の違いは初代培養細胞と不死化細胞株という同種間の違いよりも大きい。

異種間の結合パターンの違いは転写因子のDNA結合特異性の違いに起因するのではなく、蛋白モチーフに合致した配列の有無と強く相関することをTHEMEアルゴリズムで示した後に、結合する場合も結合部位は種間でかなり異なることを示しています。すなわち 同じ転写因子の結合部位をヒト-マウス間で比較した結果、約2/3でアライメントの一致が認められず、結合部位はヒト-マウス配列アライメントからだけでは予測できないことを示しています。
ヒトとマウスにおけるこの違いは転写因子結合部位の高い可動性を意味します。この転写因子結合の高い可塑性は異種間で保存された領域が機能的に重要だという前提の方法論であるファイロジェネティックフットプリンティングにも再考を迫る論文ではないかと思います。

Faecal occult blood test

June 19, 2007

Gut. 2007 Feb 19
Evaluation of a card collection based faecal immunochemical test in screening for colorectal cancer using a two-tier reflex approach

Lancet Oncology. 2006 Feb;7(2):127-31.
Immunochemical testing of individuals positive for guaiac faecal occult blood test in a screening programme for colorectal cancer: an observational study.

便潜血検査は大腸癌死亡率減少効果を示す十分な証拠があることから、大腸がん検診の基本的項目として確立しています。
化学法と免疫法という2種類の検査法がありますが、現在主流となっているのは免疫法です。

化学法は便中にペルオキシダーゼがある場合に過酸化水素存在下で基質であるグアヤックのフェノールが酸化されてキノンになり青い発色を呈する反応を利用しています。ヘモグロビンはペルオキシダーゼ活性を持っているので便中にヘモグロビンが存在する場合は発色するという理屈ですが、ヘモグロビン以外にもペルオキシダーゼ活性が生じる場合があるため、偽陽性を避けるために化学法では食事内容や内服薬の制限があります。
その点免疫法ではヒトヘモグロビンを抗原とした抗原抗体反応を利用しているので特異度が高く、食事内容や内服薬の制限もありません。上部消化管出血に対しては感度が低いものの大腸癌のスクリーニングとしては化学法に劣らず優れています。
これまでの疫学試験で化学法・免疫法ともに大腸癌死亡率減少効果があることが示されています。

以上は机上の学習ですが、実際の臨床現場では化学法が陽性で免疫法が陰性というケースがある。
この場合下部消化管内視鏡を行うか否かについてはおそらく医師の判断が分かれる。

今年2月のGutに発表された前者の論文では便潜血化学法陽性者に対して免疫法を追加検査する2段階スクリーニングの意義を検証しています。便潜血化学法陽性者558人を対象に免疫法を行った結果302人が陰性で256人が陽性だった。免疫法陰性者302人のうち2人(0.7%)に癌、12人(4.0%)にハイリスクポリープが確認された。一方免疫法陽性者の254人では47人(18.5%)に癌、54人(21.3%)にハイリスクポリープが確認された。また免疫法陰性者の93人(30.8%)は正常所見であったのに対して、免疫法陽性者では正常所見は34人(13.4%)だった。これらの結果から便潜血化学法陽性者に対して免疫法を追加検査する2段階スクリーニングによって大腸癌のハイリスク者を効果的に抽出できるとしています。

昨年のLancet Oncologyに掲載された後者の論文でも同様のスタディを行っていますが、こちらは便潜血化学法陽性者に対して免疫法を2回行っていて、免疫法の結果両方陽性をP/P、両方陰性をN/N、一方が陰性で他方が陽性をN/Pとして、それらと大腸内視鏡の結果を照合しています。
便潜血化学法陽性者800人のうちN/Nは173人(22%)、N/Pは129人(16%)、P/Pは498人(62%)で、大腸内視鏡を受けた795人のうち癌が見つかったのはN/Nが1/171人(1%未満)、N/Pが1/127人(1%未満)、P/Pが38/497人(8%)であった。また腺腫性ポリープが見つかったのはN/Nが28/171人(16%)、N/Pが24/127人(19%)、P/Pが193/497人(39%)で、正常所見はN/Nが67/171人(39%)、N/Pが49/127人(39%)、P/Pが24/497人(17%)であった。以上の結果から便潜血化学法陽性者に対する免疫法の追加検査は大腸癌スクリーングの偽陽性をかなり減らせるとしています。

便潜血化学法陽性者に対して免疫法が陰性であることが大腸内視鏡を行わない理由になるかどうかについてはケースバイケースだと思われます。

RAS inhibitors

June 15, 2007

American Journal of Kidney Diseases May 2004, Supplement Volume 43 Number 5
K/DOQI clinical practice guidelines on hypertension and antihypertensive agents in chronic kidney disease

Chronic kidney diseaseに対してどこまでACE阻害薬やARBといったRAS阻害薬を増量するかについては議論のあるところですが、Dose Effectが存在することについては異論がない。

実際に処方をする立場としてはこれまでに行われたトライアルで使用された処方に科学的根拠を求めることになります。RAS阻害薬の腎保護作用に関する論文は山のようにあるのでそれら全てに目を通すのは大変ですが、主要な論文については具体的な処方量を調べてみました。

上記のK/DOQI clinical practice guidelinesにはACE阻害薬とARBのDose Rangeが表として記載されているので参考になるかもしれませんが、2004年の記載でかつ根拠となるトライアルについての情報がないので、その点はUpToDateの方が参考になります。

これまでの主要なトライアルで使用された頻度が高い薬剤としてはACE阻害薬ではベナゼプリル、 ラミプリル 、エナラプリル、ARBではロサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタンといったところです。
ベナゼプリルについては昨年の N Engl J Medに有効性と安全性についてのスタディが報告されていて、ここで使用されたベナゼプリルの量は20mg/日です(N Engl J Med 2006;354:131-40)。
ラミプリルは一連のREINトライアルで使用されたことで有名ですが、そこで使用された最大量は5mg/日です。エナラプリルはトライアルによって5-40mg/日と差が大きい。

ARBについてはロサルタンがCOOPERATEで使用された量が100mg/日(Lancet 2003; 361: 117-24)、 バルサルタンはHKVINで使用された量が160mg/日となっています(American Journal of Kidney Diseases Vol 47, No 5 May, 2006: pp 751-760)。カンデサルタンについては極量を超えたUltra dose effectを検証したスタディがあり、そこでは32mg/日と64mg/日を比較しています(J Am Soc Nephrol 16: 3038-3045, 2005)。

COOPERATEに続き、ACE阻害薬あるいはARB単剤を増量するよりも少量のACE阻害薬とARBを併用する方が蛋白尿の改善に資するという報告もあることから(American Journal of Kidney Diseases Vol 43, No 2 February, 2004: pp 260-268)、併用療法の有効性は強調する必要があります。

ChIP-Seq

June 1, 2007

Cell, Vol 129, 823-837, 18 May 2007
High-Resolution Profiling of Histone Methylations in the Human Genome

最新号のCellに掲載された上記論文はNIHのNational Heart, Lung, and Blood Instituteによる研究報告で、20種類のヒストンメチレーション(リシンとアルギニン)分布をゲノムワイドにマッピングした驚異的解析です。
彼らはクロマチンIPとSolexa1G Genome Analyzerという次世代シークエンサーを組み合わせてChIP-Seqという新技術を確立し、ゲノムワイドにメチル化状態を評価することを実現した。

ヒストンメチレ−ション抗体で落としてきたDNAを片っ端からシークエンスするという発想(ChIP-Seq)はSolexa1G Genome Analyzerという新技術がなければ現実的には不可能に近い。

用いられた細胞はCD4陽性T細胞で、それを用いた理由は過去に彼らがChIPとSAGEを組み合わせたGMAT(Genome Wide Mapping Technique)という技術開発にT細胞を用いたことやChIP-Seqの結果をCD4陽性T細胞の既知の発現プロファイルと照合する必要があったからだと思われます。
ヒト血液からCD4+T Cell単離キットを用いてCD4陽性T細胞を精製してからMNase処理によって染色体を主にモノヌクレオソームにまで消化することでヒストンの修飾を評価した。細胞はホルムアルデヒドで処理してからソニケーションによって200-300bpの染色体フラグメントにした。2×10^7の細胞から得られた染色体をもとにChIPを行った結果落ちてきたDNAは約200ngで、PNKとクレノー酵素によって末端を修復してからTaqによって3’を突出末端にしてそれをアダプターライゲーションに用いた。さらに一対のSolexaアダプターを修復末端にライゲーションしてからアダプタープライマーで17サイクルのPCRを行い、それらをSolexa1Gシークエンスにかけた。

彼らはChIP-Seqの結果得られたゲノムワイドのヒストン修飾状態を過去に得られているCD4陽性T細胞の12726個の遺伝子発現プロファイルと関連づける解析も行っています。

ChIP-on-chipは革命的技術だと僕は思いますが、ChIP-Seqも技術的革命といえるかもしれない。