The scientific history of cancer

By Dr.Naoki

癌という病気の原因が科学的にわかってきたのはそれほど昔のことではありません。
1976年3月のNatureにウイルス由来の癌遺伝子と類似の遺伝子が正常細胞のDNAにも存在するという画期的な論文が報告されました。

Nature 260, 170 – 173 (11 March 1976)
D. STEHELIN, H. E. VARMUS, J. M. BISHOP & P. K. VOGT
DNA related to the transforming gene(s) of avian sarcoma viruses is present in normal avian DNA

癌遺伝子の歴史は癌ウイルスの研究の歴史でもあります。
鳥の肉腫を引き起こすラウス肉腫ウイルスはそのTransformation能に温度感受性が認められることから、そのウイルスには鳥に肉腫を引き起こす癌遺伝子(oncogene)が存在すると考えられていました。
サンフランシスコにあるカリフォルニア大学のVarmusとBishopの研究室はこのラウス肉腫ウイルスに存在する推定癌遺伝子と特異的にハイブリダイズするcDNAプローブを作り、正常な鳥の細胞のDNAとsubtraction hybridizationを行うことで、正常細胞のDNAに癌遺伝子のhomologous配列が存在することを発見しました。
肉腫(Sarcoma)から得られたこの最初の癌遺伝子はsrcと名付けられ、ウイルス由来のsrcをv-src、正常細胞由来のsrcをc-srcとして、ここに癌遺伝子と癌遺伝子の原型である「プロト癌遺伝子」の概念が生まれました。
癌を引き起こすウイルスに存在する癌遺伝子(oncogene)と類似したDNAが正常細胞に存在するという驚異的な発見はウイルスのもつ癌遺伝子が正常細胞のDNA由来であり、ウイルスを媒介してそれが組み換えを起こすことにより癌遺伝子へと変異していった可能性を示唆し、それは後に証明されます。
さらに驚くべきことにc-srcと類似の配列は鳥だけにとどまらず、種を超えてマウスやヒトにも存在することが明らかになります。
その後c-Srcはチロシンキナーゼであることが明らかになり、その他にも様々な癌遺伝子が発見され、それらのプロト癌遺伝子の機能解析からプロト癌遺伝子は正常細胞における細胞増殖に重要なシグナル伝達を担う遺伝子であることが明らかになります。

癌という悪の化身は種を超えて我々生命の中に存在する正常な細胞増殖を担う遺伝子の変異の蓄積によって起こります。たった一つの癌ウイルスから始まった癌遺伝子探しは、異常から正常へ、ウイルスを超えてヒトへとつながる普遍的な正常細胞の遺伝子の営みを図らずも我々にもたらしてくれました。

1976年の発表とその後の壮大ながん研究の魅力にとりつかれて、僕は今研究室にいます。
その画期的な発見から29年、VarmusとBishopはその業績によりノーベル賞を受賞しました。

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